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September 21, 2017

[Journey] 旧・栄浜村 (Starodubskoe)/南樺太 '17. 9.21

1923年7月31日、詩人・宮沢賢治は東北本線花巻駅から青森行き夜行列車に乗り、北へ向かった。賢治は前年に実妹を亡くしていた。彼女の魂が北へ飛んでいったと感じた賢治は、それを追って旅立ったという。列車と船を乗り継いで8月3日の朝に南樺太・大泊港に着くと、鉄道で行くことができる最北の地を目指した。終着駅はオホーツク海岸沿いにある栄浜だった。3日の夜、栄浜に着いた賢治は夜通し海岸を歩き、そのときの印象を作品に残した。

私も、この町を旅の終着駅にしようと考えた。栄浜は現在、スタロドゥプスコエという村になっている。

スタロドゥプスコエ。

一度聞いただけで復唱できる地名ではない。

スタロドゥプスコエへは、ユジノサハリンスクから路線バスを乗り継いで行く。所要時間は約2時間。鉄道はソ連支配後も残っていたけれど、1995年に廃止された。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

スタロドゥプスコエ行きのバス。

…スタロドゥプスコエ。

乗る前に二、三回呟いて練習してから、運転手に行き先を告げた。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

スタロドゥプスコエのバス停で車を降りると、その先は砂利道が続いていた。舗装道路もバス停で終点だ。

いまさっきの曠原風の荷馬車がくる
年老った白い重挽馬は首を垂れ
またこの男のひとのよさは
わたくしがさっきのあのがらんとした町かどで
濱のいちばん賑やかなとこはどこですかときいた時
そっちだらう、向ふには行ったことがないからと
さう云ったことでもよくわかる
いまわたくしをしんせつなよこ目で見て(その小さなレンズにはたしか樺太の白い雲もうつってゐる)

(宮沢賢治『オホーツク挽歌』)


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

賢治がひとのよい男に会ったであろう、古い民家がぽつぽつと建っているだけの、それでもおそらく村の目抜き通りと思われる一本道を歩く。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

…栄えていない。

家の脇から姿を見せた犬に吠えられる。だが性格の悪い犬ではないようで、しばらくすると、黙って後をついてきた。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

犬といっしょに海岸へ出る。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

まっ赤な朝のはまなすの花です
ああこれらのするどい花のにほひは
もうどうしても 妖精のしわざだ

(宮沢賢治『オホーツク挽歌』)

残念ながら、はまなすの花の時期は逸してしまったようだった。

浜にうち上げられた昆布の臭いが鼻をついた。ロシア人は昆布あんまり食べないのかな。もったいないな。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

この海岸では琥珀が取れるそうだ。それ目当てと思われるロシア人をちらほら見かけるけれど、飽きた様子ですぐに帰っていく人が多く、広い海岸はがらんとしている。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

爽やかな苹果青(りんごせい)の草地と
黒緑とどまつの列
(ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
五匹のちいさないそしぎが
海の巻いてくるときは
よちよちとはせて遁げ
(ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
浪がたひらにひくときは
砂の鏡のうへを
よちよちとはせてでる

(宮沢賢治『オホーツク挽歌』)


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

目の前に佇むイソシギの姿は、たぶん賢治が見たときと変わっていないのだろうなと感じた。

私についてきた犬も、やがて海に飽きてきたようだった。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

その後しばらくの間、流木に腰かけて単調な海を楽しんだ。そのとき私も、北を目指した旅の終着点をここにしてよかったと思った。


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Karapto/Sakhalinskaja, SONY α6000 with SONY E18-55mm F3.5-5.6 (2017. 9)

そして、ほんとうに、こんなオホーツク海のなぎさに座って乾いて飛んで来る砂やはまなすのいい匂を送って来る風のきれぎれのものがたりを聴いているとほんとうに不思議な気持がするのでした。それも風が私にはなしたのか私が風にはなしたのかあとはもうさっぱりわかりません。またそれらのはなしが金字の厚い何冊もの百科辞典にあるようなしっかりしたつかまえどこのあるものかそれとも風や波といっしょに次から次と移って消えて行くものかそれも私にはわかりません。ただそこから風や草穂のいい性質があなたがたのこころにうつって見えるならどんなにうれしいかしれません。
(宮沢賢治『サガレンと八月』)

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