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October 14, 2012

ブータンの不都合な事実

他の多くの国と同様、国境が全て地続きのブータンにも民族問題は存在する。外務省発行の2007年度版『ブータン国別評価』によれば、人口は67万5,000人、民族構成はチベット系60%、ネパール系20%、その他20%とされている。この割合は、十数年前、私が住んでいた頃に感じていたものに近い。実際には、南部ではネパール系の割合が高く、北部では逆にチベット系の人が多く見られた。おそらく全てを足して割れば、ほぼこれくらいではないかという程度の感覚である。私が住んでいた辺りは、チベットから移ってきた(と聞いた)人も、ちらほら住んでいた。私のいた町に限って言えば、チベット系ブータン人(≠チベット人)70%、ネパール系20%、チベット人が10%くらいの割合だった。

↓画像はブータン南端のインド国境にある町、プンツォリンの市場。


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Phuentholing (BHUTAN), MINOLTA α-9xi with MINOLTA AF ZOOM 24-85mm F3.5-4.5 NEW (2001.11)

私の職場にも、ネパール系の同僚が何人か働いていた。職種は様々だった。鍛冶職人、事務職の女性、入出庫部門の担当職等々。私より年下の、あるネパール系男性は、間接部門の部長だった。彼とは何度か個人的に酒を飲んだり食事をしたりした間柄だったので、プライベートな話をしたこともあった。彼の実家は特に裕福ではなさそうだった。けれども、ブータン唯一の国立大学(ブータンでは、国公立の学校の学費は基本的に無料である)を卒業して今の職場で働くようになったと言い、彼の兄も、大学を出て首都にある放送局に勤めていると話していた。もっとも彼に限らず、職場の管理職クラスの人は、ほぼ全員、専門学校卒以上の学歴があった。だから、人種より、むしろ学歴が地位に影響するものだと思っていた。

ブータンに住んでいた時に民族問題について深く話したことはほとんどなかった。身近で、差別を肌で感じることがなかったし、そもそも外国のセンシティブな問題をアウェーの人間が現地の人に対して軽々しく話題にすることはタブーである。

そんなわけで最近までこの国の民族問題については、実体験以上の知識はほとんどなかった。主にネパール系のブータン人難民キャンプが国境を隔てたネパール国内の片隅にあることを知ったのも、帰国後のことだった。

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先日読んだ『ブータン-「幸福な国」の不都合な真実』(河出書房新社)の著者、根本かおるさんは、大学院時代にインターンとしてブータンを追われた難民支援活動に関わったという。この国の第一印象が第三国にある難民キャンプというのは、観光などでブータンを訪ねた人のそれと大きく異なるに違いない。

この本の、他のブータン関連書籍と異なる特徴は、難民問題だけではなく、ブータンの近代史や政策についても詳細に調べて書かれていることである。この国に関する情報は曖昧なものが多いので、全体にわたって、ある側面からスパッと割り切って書かれたこの本は、それだけでも貴重な存在だ。

もちろん本書でブータンの難民問題が全てわかるわけではないし、私が実感していたこととは印象が異なる点もいくつかあった。けれどもそれはお互いに、個人として持つ印象なのだから当然のことだ。大きな誤りや著しい偏見があると感じた部分は、なかった。

私は、この本はブータンで暮らす人、あるいは暮らしたことのある人に、特に読んでもらいたいと思う。ブータン国内に住んでいると、こうした情報を目にする機会はほとんどないからだ。逆にそれ以外の人は、冷静にとらえつつ読んでいただきたいと感じる。ブータンに限らず、南アジアでは、隣国の中国チベット自治区はもとより、インドや、ブータン人難民キャンプのあるネパールでさえ、深刻な民族問題が多数、場合によっては連鎖して存在している。簡単に「ブータンだけが、けしからん!」と言い切れるものでもないのだ。しかしブータンに対して「幸せいっぱいの国」だとか「シャングリラ」とかお花畑イメージを持っている人は、それもまたちょっと違うということを知る意味で、本書をお勧めする。

余談ではあるが、昨年の国王来日以降、「ブータンの大多数の人は幸せなんですよね?」的な質問を、私も、時々されるようになった。それに対しては、もっぱら、こう答えている。

「そうかな?うーん…。俺もブータンにいるときは幸せだったな…今よりは。別の意味でね」

いやこれも本音っすわ。ふはは(←力のない笑い)。

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