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December 01, 2007

師走の風の中で

今年の春のことだっただろうか。近所に一軒のラーメン屋ができた。

あまり期待もせず、試しに醤油ラーメンを注文した。

魚でダシをとっているにも関わらず、生臭みの抑えられたスープに、センスのよさを感じた。センスのよいラーメンというのも何だが。

もうひとつ意外に感じたのは、それを作っているのが中国の人らしいということだった。中国でラーメンを食べた経験のある方はおわかりかと思うが、あれは、日本のラーメンとは全く別モノである。それなのに日本人好みの醤油ラーメンを作ることができるということに、中国人の絶対味感(?)の優秀さを思い知らされた。

それ以来、しばしばその店へ行くようになった。家からだと駅と反対方向にあり、それほど混んでいないことも、行列のできるラーメン屋嫌いの私には好都合だった。福建省出身と語る調理人兼マスターの男性は良くも悪くも中国人的で、馴染みになるにつれて、手が空くと、調理場にいながらタバコをくわえて私と世間話をするようになった。夜は私がビールを注文すると、いつの間にか彼も別にビールの入ったグラスを手に立っていた(…)。

日が経つうち、常連客も増えているように見えた。しかし、いつも彼は私に「おきゃくさんがすくないですよー。なんで?」とコボしていた。私が思うに、一番の要因は立地のせい(事実、付近の飲食店の客の入りと比べて特に少ないようには見えなかったし)だけど、先に述べたような彼の振舞いが、潔癖な類の日本人には快く受け入れられないであろうことも若干影響しているように思われた。

そのうち、彼の顔に疲れが見えるようになった。いや、他の客には見せていないのかもしれないけれど、私には結構露骨に疲れた表情を見せた。

しかし彼は商売熱心で、定休日無しで毎日23:00まで店を開けていた。「たまには休んだら?」と言っても、彼は休もうとしなかった(余談だが日本にある外国人経営の店は、こうした定休日無しの店が多いように思う)。

新メニューの開拓にも熱心だった。以前、辛いもの好きの私が担々麺をリクエストしたところ、「あれは、ふゆのたべもの。それから、げんかがたかい」と慎重な回答だった。

だが先月、「きのうはともだちとさけをのんだあと、ねないでレシピかんがえたよ」と無茶な経緯を語りつつ、新メニューの担々麺が登場した。値段は¥800。たしかに高い。スープを飲み終えた瞬間、仔細な感想を求められた。私は、テレビ番組のグルメレポーターの苦労が少し理解できたような気がした。

けれども単価の高いメニューの投入でこの手の店の売上利益が伸びるかといえば、リクエストしておいて何だが、疑問だった。ついでに書くと、いろいろな新メニューと比べてもこの店で一番うまいと感じるのは、最初に注文したメニューである醤油ラーメンだった。

先月の半ば、いつも饒舌な彼が、珍しく無口だった。

「ちょっとヤバいかな…」

もっとも「休め」と言っても彼は決して首を縦に振らないだろう。その日はあまり話をせず、店を後にした。

そしていきなり季節は冬となった。店まで足を運ぶのがしんどくなった。

昨日、久しぶりにここのラーメンが食べたくなり、駅から遠回りして店へ行った。しかしシャッターは下ろされていた。たまに麺やスープがなくなって店を早じまいしたときに見られる張り紙(ここは律儀で、「麺の品切れ時用」と「スープの品切れ時用」の二種類の紙を用意していた)もなかった。

どうなってしまったのだろうか。今、とても気になっている。


071201dec
Tokyo, Konicaminolta α Sweet DIGITAL with 20-35mm***


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